漢方のお話
院長コラム
001 東洋の知恵を借りる治療のこと
自分は耳鼻咽喉科専門医ですが、漢方薬も処方する機会が多いです。本邦の医療は西洋医学で、自分の学生時代、東洋医学の講義はありませんでした。
漢方薬を処方したきっかけになったのは、突発性難聴治療後の残存耳鳴に悩まされている患者さんでした.効能書きに「耳鳴」と記載のある薬はあまりありません。傷んだ神経の再生に必要なビタミンB12と神経賦活剤が最初に選択されることが多いです。無効な場合、マイナートランキライザーも使われます。
理想的には耳鳴が完全に消失することですが、初回の投薬で消失することはあまりなく、行き詰まるケースも多いです。その方の経過は芳しくなく、そこで東洋医学・漢方薬の学会誌で取り上げられていたある漢方薬を試用したところ、わりにうまく制御できました。文献報告に目を通すと多数の漢方薬が耳鳴治療に挙げられていることがわかりました。東洋医学的な物差しで見立て、処方の経験値が上がると、戦略的に薬を選択することができるようになってきます。
またついでに他の病態(たとえば不眠や冷え肩こり、便秘など)が改善するおまけもあります。こうした経験から、西洋医学で行き詰まった時には「東洋の知恵を借りる」ことにしました。軸足は西洋医学に置き、東洋医学の知識を借りて、漢方薬を選択するスタンスです。
なお諸外国では西洋医学と伝統医学の医師免許は別個のもので、西洋医学治療で漢方薬を併用することはできません。本邦では漢方薬の処方に特段専門医資格は不要ですし、補完的にまたは代替的に漢方薬を用いることで、治療の選択肢が増やせます。