内視鏡下上咽頭擦過療法
内視鏡下上咽頭擦過療法
上咽頭炎に対する、投薬以外の治療法です。
上咽頭とは、鼻腔と咽頭のつなぎ目の咽頭側です。開口して見えるのは中咽頭。耳鼻科医でも、上咽頭は内視鏡を用いないと正確な所見は得られません。ここにはリンパ球が多数、少し活性化された状態で多数存在し、外部から侵入してきたウイルス、細菌を吸着します。常に穏やかな炎症は起きていると考えられている部位です。
普段は無症状な炎症ですが、感冒罹患後に後鼻漏、慢性咳嗽、喉のいがらっぽい感じが出ることがあります。鼻の奥が痛いと訴えられる方もあります。
治療薬の選択は症状により、先生により様々で、万人に効く特効薬はありません。そこで援用されるのが塩化亜鉛溶液を用いた、上咽頭擦過療法です。有用性については60年ほど前から文献報告があります。当時は内視鏡が無かったので、ブラインド操作となってしまい苦労が多かったはずですが、現在は内視鏡下に炎症エリアを確認しながら、施行しています。
具体的には、一方の鼻腔から内視鏡を挿れ、反対の鼻腔から薬液がついた綿棒を入れて30秒ほど擦過します。炎症があれば粘膜からじんわり出血、寒天状の老廃物(=免疫細胞、ウイルスの残骸)が沸いてきます。擦過で一時的に咳き込んだりしますが心配いりません。内視鏡と綿棒を入れ替えて、同様の操作をします。吸引処置後、抗生剤の鼻吸入を受けていただき、終了です。これを1、2週空けて数回、症状・所見消失するまで行います。2回で終了できる方も多いです。効果実感する方は再燃時も希望されます。
この治療法は昭和時代、出版社が「Bスポット療法」と安直なネーミングをしました。多彩な症状が解決可能といった行き過ぎなイメージが先行、しかし機序解明に必要な生化学的手法はまだ緒についたばかりでした。この風潮が臨床の現場から毛嫌いされ、いったんロスト・テクノロジーとなってしまいました。
武漢ウイルスが上陸する数年前から、後鼻漏症候群への有効性が報告されるようになり、再評価された次第です。肩こりや浮動性眩暈にも効果があることもわかっています。国際的にはEpipharyngeal Abrasive Therapy(略称EAT;イート)と呼ばれます。
参考図書 その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった 堀田修著 扶桑社
近年、慢性上咽頭炎がIgA腎症や掌蹠膿疱症等の自己免疫疾患と関連があることがわかってきました。つまり上咽頭に存在する免疫組織の誤作動で、上咽頭から離れた部位が「誤爆される」という次第です。この誤爆の元となる自己抗体が作られる病態は、病巣感染と呼ばれます。また浮動感を主体とした眩暈、群発頭痛が上咽頭擦過療法で軽減することが経験的に知られています。効果が繰り返し実証されているので、病巣感染のひとつと考えて良さそうです。擦過すると寒天状の分泌物が上咽頭粘膜から湧いてきますが、病巣感染に関与した免疫細胞の残骸も含まれていると思います。擦過はデトックスみたいなものでしょうか。
ところで病巣感染の主座としては口蓋扁桃が有名で、口蓋扁桃摘術+ステロイドパルスによる根治治療が確立しています。国際的には日本がトップランナーです。上咽頭の場合は上咽頭擦過療法が定着してゆくと思います。
参考 日本病巣感染研究会
http://jfir.jp/chronic-epipharyngitis/