院長コラム
診療にあたっての想い、考え方
嗅覚障害とコロナウイルス
嗅覚障害が起きる原因疾患には上気道炎、インフルエンザ、副鼻腔炎、花粉症などがあります.
新型コロナウイルス感染に限らず、いろんな病気で嗅覚障害は起こりえます.原因疾患の追究は急ぐ必要性が無く、自然経過で回復することもあります.通常ならば1週間以上続く嗅覚障害に対しては嗅覚検査を行います.長期の投薬治療が必要になることもありますが、急いで開始する必要はありません.
しかしコロナ禍の非常時では、嗅覚検査をはじめ、嗅覚障害の原因追究は見合わせた方が良いと思います.医療機関受診による感染リスクを避けることが、ご自身やご家族、まわりの皆さんを守ることにつながります.
仮に新型コロナウイルス感染の初発症状であったとしても、最初は対症的な治療しかありません.なお8割の方は自宅療養で回復されているようです.呼吸器症状が出てくればもちろん検査が必要ですが、学会の提言通り、発熱や咳、息苦しさやだるさがなければ2週間、不要不急の外出を控えることが賢明です.
「あなたとあなたのまわりの皆さん、家族をまもるために」 これまで通り、落ち着いた受診行動をお願いいたします.
突然嗅覚が低下した場合、マスク装用・手洗いうがい励行・体温の定期的記録を行いましょう.発熱や咳、息苦しさやだるさが出たら保健所へ電話相談をしましょう. 2週間経過して嗅覚改善しない場合、嗅覚障害の原因を調べる検査を行うことがあります.お電話でご相談ください.
フラベリックでの音感変化 2019.05.25
フラベリックは咳止めとしてよく使われている薬のひとつです.咳中枢抑制と気管支拡張作用があり、安価なわりに有効性を実感できる薬です. 内服すると特に若年女性で「半音下がって聞こえる」とおっしゃる方がいらっしゃいます.休薬ですぐ回復はします.
添付文書には副作用として聴覚異常(音感の変化等)の記載があります.2006年に追加されたようですが、自発報告のため頻度不明となっています.製薬会社の担当者に頻度データなど資料はないか訊いたこともありますが、ありませんとのことでした.
そこで当院2年間(2017/5/11~2019/5/10)のフラベリック処方例を検討してみました.
処方数1054例(男性409例、女性645例)中、音感の変化など副作用をきたした症例は15例 1.42%(男性6例 1.47%、女性9例 1.40%)でした.
年齢層別では男性20歳代3人、30歳代3人.女性10歳代1人、20歳代2人、30歳代1人、40歳代5人でした.
ピアノ講師、吹奏楽など音楽へ関わり、絶対音感のある方もいらっしゃり、15例のうち8例は「半音下がって聞こえる」とのことでした.他の7例は「音が変わる」「聞こえが違う」という訴えで、めまいも1例経験しました.
自分の印象では30歳前後の若年女性に多いと思っていましたが、抽出してみたら男女差はありませんでした.高齢者には見られないのは確かです.
添付文書にある他の副作用、抗コリン作用(便秘、口渇など)などは経験がありません.なお錠剤を咬むと苦み、口内にしびれが出ることが知られています.
費用対効果のいい薬と言えます.ただ音楽を生業にされている方、音楽専攻の学生さんは回避したほうがいいかと思います.できるだけこちらからお尋ねするようにはしていますが、咳嗽で受診される場合、診察前に申し出ていただけるとありがたいです.
アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法 2018.10.23
現代病といわれ久しくなったアレルギー性鼻炎は、くしゃみ・はなみず・はなづまりが反復するため、学業・仕事・睡眠などに影響します.獲得してしまった体質に基づく症状なので、治療法は抗ヒスタミン薬を中心とした対症薬物療法が主体です.かつて眠気など副作用が付きものでしたが、最近は改善されてきました.でもできれば薬から解放されたい.アレルギー性鼻炎を根本的に治すことは望めないものなのでしょうか?
かつて漆職人は自分の子どもに幼少時から少しずつ漆を舐めさせて、漆にかぶれない体質を誘導したといいます.現代においても、ダニによるアレルギー性鼻炎に類似した治療法があり、免疫療法といいます.なお今年ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑先生の癌細胞免疫療法とは別のしくみです.2つの方法があります.1960年代から始まった①皮下免疫療法.それなりの効果がうたわれていますが、毎週皮下注射が必要で副作用がしばしば出ます.もうひとつは最近保険収載された②舌下免疫療法です.ダニ抗原を含む抗原液または舌下錠を一日1回、舌下から吸収させるものです.初期投与で副作用が出なければ、その後は月1回の受診で済みます.①と比べ通院の時間的負担も軽くなりました.
どのような方に奨められるのかといいますと①薬物療法無効、効果不十分な方②眠気など副作用が強い方③症状を抑えるのではなく寛解を希望する方、といったところです.この治療を選ぶには自覚的に鼻炎もち、という申告だけではだめです.採血検査でダニ抗原に対する抗体が高値であることが条件.ほかの病院で検査されたことがあれば、あらためて行う必要はありません.
もともと投与されている抗ヒスタミン薬はすぐ中止しません.そろそろ免疫誘導されたかなという頃、試しに休薬します.症状再燃すれば時期尚早ということで再開.また時期をみて休薬試行します.休薬成功したら舌下免疫療法奏功です.その後ややしばらく免疫療法継続の必要はありますが、鼻炎体質からの解放は大きなメリットと言えます.
もっと詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。嗅覚障害の原因と治療 2017.06.20
原因となっている病態によって治療方法を選択します.
前鼻鏡検査・鼻腔ファイバー検査、レントゲンと静脈性嗅覚検査を行い病態を分類します.
1、3なら投薬で、2.は手術治療が有効です.
投薬治療も短期間で回復する症例、長期投薬が必要となる症例が混在します.
静脈性嗅覚検査の結果が芳しくないと治療期間が6ヶ月~1年半くらいかかりますので、辛抱が必要.
2は総合病院の耳鼻咽喉科へ紹介します.手術後、投薬治療も行います.
4.は投薬治療ですが、完全な回復は得られない症例が多いものです.
感冒後の嗅覚障害例は嗅粘膜が傷んでいるために治療に苦慮することが多いです.様々な医療機関を転々とする患者さんも多い領域です.
ある漢方薬が奏功するという報告があり、自分も最終的に完治した症例の経験があります.
できる限りコミュニケーションをたくさんとり、患者の皆様と一緒に、一番いい治療を探していきたいと思っています.